All Post
FCGS

猫慢性歯肉口内炎の治療④|抗菌治療と歯科処置について

口内炎の治療では、薬に対する反応だけでなく、歯や歯周組織にどのような問題が残っているのかも、原文の重要な論点になっています。抗菌治療と歯科処置を別々に考えるのではなく、口腔内の状態と結びつけて読むことが、この篇の手がかりです。

猫の口腔内
はじめに

※ 本記事は、2022年に海外で公開された原文をもとに、日本語版として再掲載しています。

口内炎の治療では、薬に対する反応だけでなく、歯や歯周組織にどのような問題が残っているのかも、原文の重要な論点になっています。抗菌治療と歯科処置を別々に考えるのではなく、口腔内の状態と結びつけて読むことが、この篇の手がかりです。

第4篇では、原文の抗菌治療の方針から、尾側口内炎、抜歯の必要性、歯周炎の評価へと話を進めます。薬だけで考える部分と、歯そのものの処置を検討する部分を整理します。

抗菌治療の基本方針

抗菌治療の方針は、比較的シンプルです。

2022年に治療法を検討した際には、レボフロキサシンとモキシフロキサシンの両方を使用していました。その後の治療経験から、モキシフロキサシンの方がより良い効果を得られると判断し、現在はモキシフロキサシンを使用しています。

モキシフロキサシンは幅広い抗菌スペクトルを持ち、歯性感染症から分離されたさまざまな細菌に対する抗菌活性も報告されています。※27

実際の治療では、猫ちゃんの年齢や全身状態、口腔内の病変、治療への反応を確認しながら、投与量や投与方法を調整します。

治療期間と方法

抗菌治療は抗ウイルス治療と並行して行います。継続期間は、口腔内の病変や治療への反応を確認しながら判断します。

口腔用の抗菌スプレーも併用し、局所の炎症がどの程度改善しているかを見ながら、使用を調整していきます。

猫博士の治療では、治療全体の基本期間を2か月少々としています。ただし、抗菌薬を一律にその期間ずっと使用するという意味ではありません。

これまでの治療では、舌や歯肉の潰瘍は、最初の2週間ほどで改善がみられることが多く、歯肉にポリープ状の病変がある場合には、もう少し時間がかかります。

尾側口内炎の治療について

尾側口内炎の改善には、時間がかかることがあります。歯周炎(歯槽膿漏)も関わっている場合には、粘膜の炎症だけでなく、歯とその周囲に残っている問題にも対応する必要があるためです。

猫の歯肉口内炎では、歯周病変に加え、歯根吸収や残根が併存することも、歯科画像の研究で報告されています。※28

歯根部や歯槽骨に損傷があり、歯と歯肉の間に深い隙間ができている場合には、そこに細菌が定着し、炎症を長引かせる要因になることがあります。

正常な歯と歯周ポケットの構造
歯と歯周組織の構造。左:正常な歯の構造。右:歯槽骨や歯周組織の損傷に伴って形成された深い歯周ポケット。Perry・Tutt(2015)のFigure 2、Figure 19より。

こうした場所では、経口薬や注射薬が周囲の組織に届いていても、定着した細菌を十分に除去できないことがあります。特に、細菌がバイオフィルムを形成している場合には、浮遊している細菌と比べて抗菌薬が効きにくくなります。※29

複数の菌種からなる歯垢バイオフィルムの構造
複数の菌種からなるバイオフィルムの構造。歯垢では、細菌がつくる細胞外多糖のマトリックスの中に、さまざまな細菌が存在しています。Essentials of Glycobiology 第4版(2022)、Figure 42.4より。

また、口腔スプレーも、歯や歯肉に遮られ、歯周ポケットの奥まで十分に届くとは限りません。

抜歯の必要性と判断

前に述べたように、感染が炎症を持続させている場合には、原因となる病原体への対応が必要です。薬で炎症を抑えても、感染が残りやすい場所がそのままであれば、症状を繰り返す原因になります。

特に、保存が難しいほど傷んだ歯に歯周病変がある場合、抜歯は直接的な解決策になります。

しかし、すべての歯を抜く必要があるとは限りません。猫の口内炎を対象とした研究でも、全口抜歯と部分抜歯で、治療への全体的な反応に有意な差は認められていません。※30

猫の歯科画像

尾側口内炎に前臼歯や臼歯の歯周炎が関わっている場合には、問題となっている歯の処置が重要です。悪くなった歯を抜き、細菌が残りやすい場所を取り除くことで、局所の治療も進めやすくなり、関連する炎症の改善につながります。

また、前臼歯や臼歯をすべて抜くかどうかも、実際の病変を見て判断します。歯科用レントゲンで歯根や歯槽骨の状態、残根の有無を調べ、口腔内の診察所見と合わせて、どの歯に処置が必要なのかを確認します。

歯を抜かない場合

どうしても抜歯を避けたいという飼い主さんもいらっしゃいます。実際の治療でも、抜歯より、薬による治療の継続を希望されるケースがあります。

これまでの治療では、歯を抜かずに歯周部の炎症や尾側口内炎の症状が改善したケースもあります。ただし、治療と経過観察が半年以上に及ぶこともあります。

この場合も、同じ抗菌薬をそのまま長期間続けるのではなく、口腔内の病変や治療への反応を確認しながら、継続の必要性を判断します。

このような治療を選ぶかどうかは、猫ちゃんの痛みや食事の状態、治療にかかる期間と負担を踏まえ、飼い主さんと相談して決めていきます。治療中も、歯の処置が必要な状態になっていないかを確認します。

歯周炎の判断

治療では、抗炎症・抗ウイルス・抗菌という3つのアプローチを組み合わせ、その後の変化を確認します。

抗ウイルス治療の終了時に、口腔内の症状を改めて評価します。その時点で歯肉炎がみられず、治療を中断できる状態であれば、休薬後に炎症が再発しないかを観察します。

再発後、抗菌薬のみで炎症が再び落ち着く場合には、細菌の関与が残っていることを考えます。歯科用レントゲンや歯周検査の所見と合わせて、歯周炎が関わっているかを判断します。※31

重症例での対応

猫ちゃんの状態が悪く、痛みのために口からの投薬や食事が難しい場合には、必要な抜歯を先に行った方が、その後の治療をスムーズに進められることがあります。

特に、痛みの原因となっている前臼歯や臼歯を処置することで、歯のぐらつきや刺激による痛みが軽減し、薬の投与や食事の介助を行いやすくなります。

おわりに

原文における抗菌治療の論点は、薬剤の選択だけではありません。歯や歯周組織の状態、局所に残る問題、治療への反応を確認しながら、歯科処置も含めて考えることが、篇全体を通した軸になっています。

四つの篇を通じて紹介したいのは、一つの薬を「特効薬」として捉えるのではなく、それぞれの治療の目的と限界を理解し、経過を見ながら全体を考えるという原文の姿勢です。実際の治療の選択や変更、終了の判断は、担当獣医師による個別の評価と相談のもとで行ってください。

参考文献・資料

本文の※番号は、編集元の原文と照合できるよう、そのまま残しています。

REFERENCES / EVIDENCE参考文献・資料本文で参照した研究・資料(5件)

※27|モキシフロキサシンとレボフロキサシンの口腔由来細菌に対する抗菌活性〔ヒトの歯性感染症から分離した菌の試験〕

Sobottka I, Cachovan G, Stürenburg E, Ahlers MO, Laufs R, Platzer U, Mack D.(2002)
In Vitro Activity of Moxifloxacin against Bacteria Isolated from Odontogenic Abscesses.
日本語訳:『歯性感染による膿瘍から分離された細菌に対する、モキシフロキサシンの試験管内抗菌活性』
公開日:2002年12月1日。
掲載誌:Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 46(12): 4019–4021.
DOI:10.1128/AAC.46.12.4019-4021.2002。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/aac.46.12.4019-4021.2002

※28|猫の歯肉口内炎に併存する歯周病変・歯根吸収・残根と、歯科用レントゲンによる評価

Farcas N, Lommer MJ, Kass PH, Verstraete FJM.(2014)
Dental radiographic findings in cats with chronic gingivostomatitis (2002–2012).
日本語訳:『慢性歯肉口内炎の猫における歯科X線所見(2002~2012年)』
刊行日:2014年2月1日。
掲載誌:Journal of the American Veterinary Medical Association, 244(3): 339–345.
DOI:10.2460/javma.244.3.339。
https://doi.org/10.2460/javma.244.3.339

※29|歯周炎関連細菌のバイオフィルムと、モキシフロキサシンの作用〔試験管内研究〕

Tsaousoglou P, Nietzsche S, Cachovan G, Sculean A, Eick S.(2014)
Antibacterial activity of moxifloxacin on bacteria associated with periodontitis within a biofilm.
日本語訳:『バイオフィルム内の歯周炎関連細菌に対する、モキシフロキサシンの抗菌活性』
公開日:2013年11月11日(オンライン先行公開)。巻号の刊行は2014年2月。
掲載誌:Journal of Medical Microbiology, 63(2): 284–292.
DOI:10.1099/jmm.0.065441-0。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24217128/

※30|猫の口内炎に対する抜歯の効果と、全口抜歯・部分抜歯の比較

Jennings MW, Lewis JR, Soltero-Rivera MM, Brown DC, Reiter AM.(2015)
Effect of tooth extraction on stomatitis in cats: 95 cases (2000–2013).
日本語訳:『猫の口内炎に対する抜歯の効果:95症例の検討(2000~2013年)』
刊行日:2015年3月15日。
掲載誌:Journal of the American Veterinary Medical Association, 246(6): 654–660.
DOI:10.2460/javma.246.6.654。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25719848/

※31|歯周炎の診断に必要な口腔・歯周検査と歯科画像評価、および疼痛を伴う歯科病変への対応

Lobprise H, St Denis K, Anderson JG, Hoyer N, Fiani N, Yaroslav J.(2025)
2025 FelineVMA feline oral health and dental care guidelines.
日本語訳:『2025年FelineVMA 猫の口腔衛生・歯科ケアガイドライン』
公開日:2025年11月29日。
掲載誌:Journal of Feline Medicine and Surgery, 27(11): 1098612X251398793.
DOI:10.1177/1098612X251398793。
https://doi.org/10.1177/1098612X251398793

Article About FCGS

More
猫慢性歯肉口内炎の治療①|総論と3つの治療アプローチ猫慢性歯肉口内炎の治療③|抗炎症治療について猫慢性歯肉口内炎の治療②|抗ウイルス治療について