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その他

ウイルスと細菌③

本記事では、糖鎖結合を手がかりに、ウイルスと細菌の直接的な相互作用を整理します。ノロウイルスと胆汁酸、RSVと肺炎球菌、インフルエンザと呼吸器細菌の例を通じて、宿主環境を含めた複雑な関係を解説します。

ウイルスと細菌③

はじめに

全体として、ウイルスが真核細胞表面の糖鎖にどのように結合するかを見ることで、細菌との相互作用を理解する手がかりが得られます。

糖鎖結合から見える細菌との相互作用

細菌のLPSやPGは、いずれも糖鎖を含む高分子構造です(組織血液型抗原は、比較的短い糖鎖モチーフです)。ウイルス表面の糖鎖結合部位の多くは、水性環境に露出した浅い溝状の構造をしており、一つひとつの結合は弱いものにとどまります。ただ、ウイルスと宿主細胞の結合は多価的で、複数の結合部位を介して、複数の受容体分子に同時に付着できます。こうした糖鎖結合部位のわずかな変化が、ウイルスの細胞指向性や体内での広がりやすさを大きく変えることがあります。※13 また、LPSやPGの構造の多様性も、ウイルスにさまざまな結合の機会を与えています。

さらに、細菌の表面には、さまざまなタンパク質など、ほかにも多くの成分があり、その一部はウイルスと相互作用します。何しろ、ウイルスの外側にも、さまざまな形をしたタンパク質構造が豊富にあるのですから。

FIPの解説図

ノロウイルスと胆汁酸

変異の速いウイルスの中には、カリシウイルス科のノロウイルスのように、細菌の構造や、細菌叢の影響を受けた環境条件を利用して、自らの感染能力を高めるものもあります。マウスノロウイルスは、胆汁酸の作用で表面のカプシドタンパク質の立体構造を変え、宿主の受容体への結合を強めることができます。※14

RSVと肺炎球菌の直接結合

RSウイルス(RSV)は、自身のGタンパク質を介して肺炎球菌のペニシリン結合タンパク質1a(PBP1a)に結合し、細菌が上皮細胞に付着する効率を高めるだけでなく、その病原性まで強めます。※15 インフルエンザウイルスも負けてはいません。

FIPの解説図

インフルエンザと呼吸器細菌

A型インフルエンザウイルスは、宿主組織の細胞環境を変えることで、細菌感染を悪化させることがあります。それだけでなく、ウイルスと細菌の直接的な結合は、一部の細菌の上皮細胞への付着を強め、ほかの部位への移行も促します。例えば、肺炎球菌が鼻咽頭から中耳へ移行する場合です。A型インフルエンザウイルスは、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、モラクセラ・カタラーリス、型別不能インフルエンザ菌など、さまざまな細菌に結合できます。こうした相互作用の一部は、細菌感染をさらに悪化させます。※16 前に触れた不活化ワクチンの併用実験では、インフルエンザウイルスと肺炎球菌の直接的な結合によって、マクロファージによるウイルスの取り込みも増加しました。

複雑な相互関係をどう理解するか

このように、ウイルスと細菌の間には、複雑で微妙な相互関係があります。こうした直接的・間接的なつながりや作用を十分に理解することは、両者により効果的に対処するうえで、間違いなく役立ちます。ただ、その全体像を明らかにするには、何世代にもわたって、長い年月をかけて取り組む必要があります。

実は、細菌の増殖抑制と抗ウイルス対策を結びつけて考えることで、多くの問題は解決へと向かいます。結局のところ、成功をもたらすのは、明日のことを思い悩むことではなく、今日の仕事をきちんとやり遂げることなのです。——ウィリアム・オスラー

REFERENCES / EVIDENCE参考文献本文で参照した研究・文献(4件)

※13|「ウイルスの糖鎖結合部位の変化が、リガンド認識、細胞指向性、病原性に影響すること」に対応

Buch MHC, Liaci AM, O’Hara SD, Garcea RL, Neu U, Stehle T.(2015)
Structural and Functional Analysis of Murine Polyomavirus Capsid Proteins Establish the Determinants of Ligand Recognition and Pathogenicity.
日本語訳:『マウスポリオーマウイルスのカプシドタンパク質の構造・機能解析により明らかになった、リガンド認識と病原性の決定因子』
公開日:2015年10月16日。
掲載誌:PLOS Pathogens, 11(10): e1005104.
DOI:10.1371/journal.ppat.1005104

※14|「胆汁酸がマウスノロウイルスのカプシド構造を変化させ、受容体への結合を強めること」に対応

Sherman MB, Williams AN, Smith HQ, et al.(2019)
Bile Salts Alter the Mouse Norovirus Capsid Conformation: Possible Implications for Cell Attachment and Immune Evasion.
日本語訳:『胆汁酸塩はマウスノロウイルスのカプシド立体構造を変化させる:細胞への付着と免疫回避への潜在的な影響』
公開日:2019年7月24日(早期オンライン公開)。巻号の刊行は2019年10月1日。
掲載誌:Journal of Virology, 93(19): e00970-19.
DOI:10.1128/JVI.00970-19

※15|「RSVのGタンパク質が肺炎球菌のPBP1aに結合し、細菌の付着と病原性を高めること」に対応

Smith CM, Sandrini S, Datta S, et al.(2014)
Respiratory Syncytial Virus Increases the Virulence of Streptococcus pneumoniae by Binding to Penicillin Binding Protein 1a. A New Paradigm in Respiratory Infection.
日本語訳:『RSウイルスはペニシリン結合タンパク質1aに結合することで肺炎球菌の病原性を高める:呼吸器感染症の新たなパラダイム』
刊行日:2014年7月15日(正式巻号の刊行日)。
掲載誌:American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 190(2): 196–207.
DOI:10.1164/rccm.201311-2110OC

※16|「A型インフルエンザウイルスが複数の呼吸器細菌と直接結合し、細菌の付着や肺炎球菌の移行を促進すること」に対応

Rowe HM, Meliopoulos VA, Iverson A, Bomme P, Schultz-Cherry S, Rosch JW.(2019)
Direct interactions with influenza promote bacterial adherence during respiratory infections.
日本語訳:『呼吸器感染症におけるインフルエンザウイルスとの直接的な相互作用は、細菌の付着を促進する』
公開日:2019年5月20日(オンライン公開)。巻号の刊行は2019年8月。
掲載誌:Nature Microbiology, 4(8): 1328–1336.
DOI:10.1038/s41564-019-0447-0

ARTICLE INFORMATION

執筆・監修/公開情報

本記事の執筆・監修者と公開履歴

CREDITS

01 / WRITER

猫博士研究チーム

02 / REVIEW

Li Yun 博士

獣医師

PUBLICATION

公開日

2025年6月22日

最終更新

2025年6月26日

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