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その他

ウイルスと細菌②

本記事では、細菌やその表面成分が、ウイルスの安定性と感染に与える影響を整理します。LPSによるポリオウイルスの安定化、セグメント細菌による防御、サーファクチンの作用などを例に、感染を助ける場合と妨げる場合の違いを解説します。

ウイルスと細菌②

はじめに

直接的な相互作用の例は、さらに多くあります。

細菌がウイルスを環境中で保護する

グラム陰性菌(G⁻)にもグラム陽性菌(G⁺)にも、メンゴウイルスやアイチウイルスを保護し、漂白剤による不活化を軽減する菌株があります。小児麻痺を引き起こすポリオウイルスや、コクサッキーB3ウイルスでは、一部の菌株がその熱安定性を高めることもあります。※8 ノロウイルスのウイルス様粒子も、組織血液型抗原(HBGA)を発現する細菌に結合すると、熱処理後もカプシドの構造や結合能力が保たれやすくなります。※9 実際、多くの腸管ウイルスは、細菌の外側を覆う構造に結合することで、自分自身を保護できます。こうして環境中での安定性が高まれば、宿主細胞にたどり着くまで感染能力を維持しやすくなるのです。

LPSによるポリオウイルスの安定化

ポリオウイルスがLPSに結合すると、宿主細胞の受容体(PVR)への結合が強まり、カプシドも安定するため、ゲノムが早まって放出されにくくなります。この安定化の仕組みについては、長鎖多糖がカプシド上の隣り合う結合部位を「橋渡し」し、つなぎ留めて補強するというモデルが提案されています。※10

FIPの解説図

細菌がウイルス感染を妨げる場合

もちろん、細菌やその産生物が、ウイルスの働きを妨げることもあります。セグメント細菌は、マウスをロタウイルス感染から保護します。しかも、その防御効果は、インターフェロンやIL-17、IL-22など、これまでに調べられた抗ウイルス免疫因子には依存していません。

セグメント細菌によるロタウイルス防御

もっと驚くのは、セグメント細菌を保有するマウスの糞便を用いて腸内細菌叢を移植すると、ほかのマウスにもロタウイルス感染への抵抗力を与えられることです。同じ研究の試験管内実験では、こうしたマウスの糞便試料が、A型インフルエンザウイルスや水疱性口内炎ウイルスの感染性を低下させることも示されています。

念のため言っておきますが、A型インフルエンザの予防にネズミのフンを食べることを勧めているわけではありません。

サーファクチンの抗ウイルス作用

さらに、サーファクチン(Surfactin)もあります。枯草菌が産生する、膜を破壊する作用を持つ環状リポペプチドです。コロナウイルス粒子の構造を壊し、宿主細胞への感染能力を失わせます。この作用は実験で、ほかにも多くのエンベロープを持つRNAウイルスに対して確認されています。エボラ、ジカ、マヤロ、インフルエンザ、チクングニア……。※11

FIPの解説図

細菌表面成分ごとの違い

哺乳類に感染するウイルスは、細菌表面のLPSやPGなどの成分を介して、細菌に結合することがあります。ポリオウイルスでは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含む多糖構造が、この安定化作用に関わっています。キチンも、実験では同様の保護作用を示しました。ただし、キチンは、通常の細菌の細胞壁を構成する成分ではありません。

一方、ノロウイルスは、もともと組織血液型抗原(HBGA)を認識して宿主細胞に付着するため、細菌表面のHBGA様構造にも結合できます。また、グラム陽性菌のリポテイコ酸は、一部の血清型のレオウイルス(reovirus)の熱安定性を高めます。※12 こうした細菌のさまざまな成分を利用する能力は、ウイルスの種類、さらには血清型によっても異なります。

REFERENCES / EVIDENCE参考文献本文で参照した研究・文献(6件)

※8|「細菌が各種ピコルナウイルスの耐熱性と漂白剤への耐性に及ぼす影響」に対応

Aguilera ER, Nguyen Y, Sasaki J, Pfeiffer JK.(2019)
Bacterial Stabilization of a Panel of Picornaviruses.
日本語訳:『細菌による各種ピコルナウイルスの安定化』
公開日:2019年4月3日。
掲載誌:mSphere, 4(2): e00183-19.
DOI:10.1128/mSphere.00183-19

※9|「HBGAを発現する細菌がノロウイルス様粒子を熱による損傷から保護すること」に対応。後段の細菌表面のHBGAへの結合に関する説明にも使用

Li D, Breiman A, le Pendu J, Uyttendaele M.(2015)
Binding to histo-blood group antigen-expressing bacteria protects human norovirus from acute heat stress.
日本語訳:『組織血液型抗原を発現する細菌への結合は、ヒトノロウイルスを急性の熱ストレスから保護する』
公開日:2015年7月1日。
掲載誌:Frontiers in Microbiology, 6: 659.
DOI:10.3389/fmicb.2015.00659

※10|「LPSによるポリオウイルスの安定化と受容体への結合促進」、および「長鎖多糖による橋渡し」の機序モデルに対応

Robinson CM, Jesudhasan PR, Pfeiffer JK.(2014)
Bacterial lipopolysaccharide binding enhances virion stability and promotes environmental fitness of an enteric virus.
日本語訳:『細菌リポ多糖との結合は、腸管ウイルスの粒子安定性と環境適応性を高める』
公開日:2014年1月15日。
掲載誌:Cell Host & Microbe, 15(1): 36–46.
DOI:10.1016/j.chom.2013.12.004

Lu H, Lehrman MA, Pfeiffer JK.(2020)
Use of a Glycan Library Reveals a New Model for Enteric Virus Oligosaccharide Binding and Virion Stabilization.
日本語訳:『糖鎖ライブラリーを用いて明らかになった、腸管ウイルスのオリゴ糖結合とウイルス粒子安定化の新たなモデル』
公開日:2020年2月28日(PubMedに記載された刊行日)。
掲載誌:Journal of Virology, 94(6): e01894-19.
DOI:10.1128/JVI.01894-19

※11|「サーファクチンがコロナウイルス粒子を破壊し、さまざまなエンベロープウイルスにも作用すること」に対応

Johnson BA, Hage A, Kalveram B, et al.(2019)
Peptidoglycan-Associated Cyclic Lipopeptide Disrupts Viral Infectivity.
日本語訳:『ペプチドグリカンに付随する環状リポペプチドは、ウイルスの感染性を失わせる』
公開日:2019年10月29日(オンライン掲載)。巻号の刊行は2019年11月15日。
掲載誌:Journal of Virology, 93(22): e01282-19.
DOI:10.1128/JVI.01282-19

※12|「細菌表面の成分によるレオウイルスの安定化と、リポテイコ酸の作用にみられる血清型間の違い」に対応

Berger AK, Yi H, Kearns DB, Mainou BA.(2017)
Bacteria and bacterial envelope components enhance mammalian reovirus thermostability.
日本語訳:『細菌および細菌の細胞表層成分は、哺乳類レオウイルスの熱安定性を高める』
公開日:2017年12月6日。
掲載誌:PLOS Pathogens, 13(12): e1006768.
DOI:10.1371/journal.ppat.1006768

ARTICLE INFORMATION

執筆・監修/公開情報

本記事の執筆・監修者と公開履歴

CREDITS

01 / WRITER

猫博士研究チーム

02 / REVIEW

Li Yun 博士

獣医師

PUBLICATION

公開日

2025年5月19日

最終更新

2025年5月19日

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