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その他

便秘と下痢②

猫の下痢を引き起こす主な原因を、腸の運動、消化・吸収、腸内細菌、炎症・潰瘍、粘膜障害と通過障害の5つに整理します。症状だけでなく、腸内で何が起きているかを病態から理解する記事です。

便秘と下痢②

はじめに

今回の記事は少し長くなりますが、下痢や下痢止めに対する一般的な認識を、大きく見直すきっかけになる内容です。

前回の投稿では、下痢がどのように起こるのか、その基本的な仕組みを解説しました。今回は、下痢を引き起こす主な原因について、もう少し踏み込んでお話しします。

さらに次回以降は、下痢の本当の原因をどう見つけるのか、何をどの順番で判断するのか、そして適切な治療をどう進めるのかについても、順を追って紹介していきます。

下痢の主な原因

ここでは、下痢が起こる仕組みを、次の5つの観点から整理します。

  • 腸の推進運動が速すぎる
  • 小腸での消化・吸収が不十分になる
  • 腸内細菌の増殖や代謝のバランスが変わる
  • 炎症や潰瘍によって、血液や滲出物が腸内に流れ込む
  • 粘膜障害や内容物の通過障害によって、水分吸収が妨げられる

実際には、これらが重なったり、腸管からの水分分泌の増加が加わったりして、下痢につながります。

Ⅰ.腸の推進運動が速すぎる場合

腸の内容物を先へ送る動きが過度に強まると、大腸内にとどまる時間が短くなり、水分が十分に吸収される前に排泄されてしまいます。

腸の運動は、輪走筋と縦走筋の収縮・弛緩が連動することで生まれます。輪走筋は腸管を締め、縦走筋は腸管を短くする方向に働き、この組み合わせによって、内容物の混和や前方への推進が行われます。※5

通過が速すぎれば、吸収に必要な時間を確保できません。

こうした腸の動きの変化には、神経による調節も関わっています。神経性の消化管トラブルは、運動低下による便秘として現れることもあれば、便意の増加や下痢として現れることもあります。

例えば、ヒトでは運動中に急な便意や下痢が生じることがあり、「runner’s diarrhea(ランナー下痢)」などと呼ばれます。

FIPの解説図

ただし、これは走行時の振動だけで説明できる現象ではありません。自転車競技などでも消化器症状は起こり、運動中の腸管血流の低下や、腸粘膜の機能変化も関与します。※6

長時間の運動に伴う下痢では、腸の動きだけでなく、脱水、電解質の変化、運動前後に摂取した飲食物なども含めて考える必要があります。

猫や犬でも、喧嘩や強い興奮、恐怖をきっかけに、いわゆる「うんちを飛ばしてしまう」ような状況になることがあります。

FIPの解説図

こうした排便には、神経刺激による一時的な反応が関わっている可能性があります。腸の内容物が急に送り出され、通過時間が短くなれば、便の一部がゆるくなることも考えられます。

Ⅱ.小腸での吸収不良・消化不良

タンパク質や脂質の消化が十分でなかったり、乳糖・果糖、マグネシウム、ビタミンCなどが吸収しきれずに腸内に残ったりすると、未吸収の成分やその分解産物によって、腸管内の浸透圧負荷が増えることがあります。

吸収されにくい物質が腸内に多く残れば、水分もそこに引き留められます。これが、下痢における「浸透圧性」の要素です。※7

例えば、乳糖や糖アルコール、吸収能力を上回る量の果糖などが挙げられます。タンパク質や脂質でも、食品の状態や摂取量、消化機能によって、消化・吸収のされ方は変わります。

卵白由来のタンパク質もその一例で、ヒトの実験では、生の状態と加熱した状態で消化率に大きな違いが認められています。脂肪についても、消化能力に見合わない量を摂取すれば、未吸収の成分が増える原因になります。

下剤の中にも、この浸透圧の仕組みを利用するものがあります。例えば、ラクツロース(lactulose)は小腸で吸収されにくい糖で、腸管内に水分を引き留め、排便を促します。

一方で、「吸収されやすい食品」であっても、過量に摂取すれば消化不良につながり得ます。ただし、消化不良がみられたからといって、すぐに絶食することが合理的とは限りません。

直前の食餌内容が原因なら、その内容物はすでに腸内にあります。その後の食事を止めるだけで、起きている問題が解決するとは限らないのです。

慢性的な消化不良であれば、当然ながら食事を一生断つことはできません。

さらに、感染症などの病気が同時に進んでいるときに、必要なエネルギーや栄養の供給まで断たれると、回復に不利になることがあります。食べられる状態かどうかを確認しながら、食餌内容や量、与え方を調整することが重要です。※8

Ⅲ.大腸内細菌の増殖と、浸透圧性負荷の増加

大腸内の常在細菌には、いわゆる無害菌や有益菌と呼ばれるものも含まれます。その増殖や発酵活動が変化すると、腸内につくられる有機酸などの代謝産物も変わります。

こうした可溶性物質が吸収しきれずに多く残れば、腸管内の浸透圧負荷が増え、水分も保持されやすくなります。その結果、水分の回収が追いつかず、下痢につながることがあります。

猫の下痢でも、腸内細菌叢の構成や、細菌が担う代謝機能の変化が報告されています。※9

腸内環境の維持には、宿主の免疫も関わっています。好中球などの顆粒球や、単球・マクロファージを含む白血球は、腸粘膜に侵入した細菌を排除し、感染を抑えるうえで重要です。

白血球数が不足したり、その機能が低下したりすると、細菌に対する制御が弱まることがあります。疾病時には、免疫細胞の数だけでなく、分布や働きも変わり、その影響が腸内環境に及ぶ可能性があります。

FIPの解説図

つまり、

免疫による制御の低下 → 細菌の増殖・代謝の変化 → 腸内に残る浸透圧性物質の増加 → 下痢

という経路です。

例えば、パルボウイルス感染症や猫白血病ウイルス感染症などでは、白血球数そのものが大きく低下することがあります。こうした症例では、腸粘膜の障害と免疫機能の低下が、どのように重なっているかを見る必要があります。

Ⅳ.便中への血液・膿の混入

血液や膿が便に混じる場合には、その背景に腸粘膜の炎症や潰瘍性病変があることを考えます。

炎症によって血漿成分や滲出液が腸管内へ流れ込み、傷んだ粘膜では吸収が低下し、分泌が増えることもあります。こうした変化が重なって、便の水分量が増えていきます。

腸の炎症性疾患や一部の細菌感染では、粘膜の傷害、びらん、潰瘍などが生じることがあります。ヒトの潰瘍性大腸炎やクローン病も、その例です。猫でも、炎症性腸疾患(IBD)や感染性腸炎などが、慢性的な下痢の背景にある場合があります。

これらの病変は、腹痛を伴うこともあります。

猫で慢性の下痢が続き、うずくまるような姿勢や元気の低下が目立つ場合には、こうした病態も考える必要があります。原因や粘膜の傷み方によっては、短期間での改善が難しいこともあります。

FIPの解説図

Ⅴ.粘膜障害や通過障害によって、水分吸収が妨げられる

腸粘膜が損傷していると、本来の吸収機能を十分に発揮できなくなります。内容物の通過や混和に問題がある場合にも、水分の移動や排便の状態が変わることがあります。

ここでは、細菌、ウイルス、原虫、異物という4つの観点から見ていきます。

FIPの解説図

1)細菌性

グラム陰性菌にも陽性菌にも、腸粘膜に障害を起こす病原菌があります。

例えば、病原性大腸菌は腸上皮に付着し、細胞の機能や粘膜の構造に影響を与えます。子猫でも、腸管への大腸菌の付着や炎症性病変と、下痢との関連が報告されています。※10

また、グラム陰性菌の外膜には、内毒素であるリポ多糖(LPS)が含まれています。LPSは宿主の炎症反応や上皮細胞のシグナルに作用し、腸粘膜のバリア機能を損なうことがあります。※11

2)ウイルス性

犬猫では、コロナウイルスやパルボウイルスなどが、消化管の症状に関わります。猫ノロウイルスについても、胃腸炎との関連を調べた研究があります。

猫からアデノウイルスが分離された報告もありますが、どのウイルスが実際に症状の原因になっているかは、感染の有無と臨床所見を合わせて判断します。※12

3)原虫

コクシジウム、トリトリコモナス、ジアルジアなどが挙げられます。

腸粘膜への付着や炎症、吸収機能への影響など、原虫によって下痢を起こす仕組みは異なります。

4)異物・便塊などによる通過障害

異物だけでなく、硬くなってたまった便塊も、内容物の通過を妨げたり、粘膜を圧迫・刺激したりすることがあります。

また、ガスがたまって腸管が強く拡張すると、内容物の移動や腸壁の働きに影響することがあります。こうした場合には、単に便がゆるいというだけでなく、腸内に内容物が停滞していないか、通過障害がないかも確認します。

まとめと次回のご案内

今回の投稿では、猫の下痢を引き起こす主な原因と、その基本的な仕組みについて解説しました。

原因の全体像を知ることで、下痢という症状を、より冷静に捉えられるようになります。

次回は、実際に猫が下痢をした際に、どのような順序で原因を切り分けていくべきかを、具体的に紹介します。

また、乳酸菌やプロバイオティクスが効く場合と効かない場合がある理由や、一般的な対症療法の限界についても取り上げます。

猫の下痢を前にしたとき、何から確認し、どのように原因を探り、見えてきた原因にどう対応するのか。その考え方を、次回まとめていきます。

ぜひ、引き続きご覧ください。

REFERENCES / EVIDENCE参考文献・資料本文で参照した研究・資料(8件)

※5|輪走筋と縦走筋の協調による、腸内容物の推進

Hennig GW, Costa M, Chen BN, Brookes SJH.(1999)
Quantitative analysis of peristalsis in the guinea-pig small intestine using spatio-temporal maps.
日本語訳:『時空間マップを用いたモルモット小腸の蠕動運動の定量解析』
刊行年月:1999年6月。
掲載誌:The Journal of Physiology, 517(2): 575–590.

※6|運動に伴う腸管血流の低下と、腸粘膜の機能変化〔ヒトの研究〕

van Wijck K, Lenaerts K, van Loon LJC, et al.(2011)
Exercise-Induced Splanchnic Hypoperfusion Results in Gut Dysfunction in Healthy Men.
日本語訳:『運動による内臓血流の低下は、健康な男性の腸管機能障害を引き起こす』
公開日:2011年7月21日。
掲載誌:PLOS ONE, 6(7): e22366.

※7|未吸収の糖、細菌の代謝産物と浸透圧性下痢〔ヒトの研究〕

Hammer HF, Santa Ana CA, Schiller LR, Fordtran JS.(1989)
Studies of osmotic diarrhea induced in normal subjects by ingestion of polyethylene glycol and lactulose.
日本語訳:『ポリエチレングリコールとラクツロースの摂取によって健康な被験者に誘発された浸透圧性下痢の研究』
公開日:1989年10月1日。
掲載誌:The Journal of Clinical Investigation, 84(4): 1056–1062.
同じ節の卵タンパク質の消化率に関する文献:
Evenepoel P, Geypens B, Luypaerts A, et al.(1998)
Digestibility of Cooked and Raw Egg Protein in Humans as Assessed by Stable Isotope Techniques.
日本語訳:『安定同位体法で評価した、ヒトにおける加熱卵と生卵のタンパク質消化率』
刊行年月:1998年10月。
掲載誌:The Journal of Nutrition, 128(10): 1716–1722.

※8|重症腸炎における早期の経腸栄養と回復〔犬の無作為化比較試験〕

Mohr AJ, Leisewitz AL, Jacobson LS, et al.(2003)
Effect of Early Enteral Nutrition on Intestinal Permeability, Intestinal Protein Loss, and Outcome in Dogs with Severe Parvoviral Enteritis.
日本語訳:『重症パルボウイルス性腸炎の犬における、早期経腸栄養の腸管透過性、タンパク質喪失、転帰への影響』
刊行年月:2003年11~12月。
掲載誌:Journal of Veterinary Internal Medicine, 17(6): 791–798.

※9|下痢の猫における腸内細菌叢と、細菌の代謝機能の変化

Suchodolski JS, Foster ML, Sohail MU, et al.(2015)
The Fecal Microbiome in Cats with Diarrhea.
日本語訳:『下痢の猫における糞便マイクロバイオーム』
公開日:2015年5月19日。
掲載誌:PLOS ONE, 10(5): e0127378.

※10|子猫の病原性大腸菌、腸粘膜の病変と下痢

Watson VE, Jacob ME, Flowers JR, et al.(2017)
Association of Atypical Enteropathogenic Escherichia coli with Diarrhea and Related Mortality in Kittens.
日本語訳:『子猫における非定型腸管病原性大腸菌と、下痢および関連死亡との関係』
公開日:2017年6月28日(早期オンライン公開)。巻号の刊行は2017年9月。
掲載誌:Journal of Clinical Microbiology, 55(9): 2719–2735.

※11|LPSによる腸上皮バリア機能への影響〔細胞・マウス実験〕

Guo S, Nighot M, Al-Sadi R, et al.(2015)
Lipopolysaccharide Regulation of Intestinal Tight Junction Permeability Is Mediated by TLR4 Signal Transduction Pathway Activation of FAK and MyD88.
日本語訳:『LPSによる腸管タイトジャンクション透過性の調節は、TLR4経路を介したFAKとMyD88の活性化によって起こる』
刊行日:2015年11月15日。
掲載誌:The Journal of Immunology, 195(10): 4999–5010.

※12|猫ノロウイルスの病原性研究、および猫からのアデノウイルス分離報告

Takano T, Kusuhara H, Kuroishi A, et al.(2015)
Molecular characterization and pathogenicity of a genogroup GVI feline norovirus.
日本語訳:『遺伝子群GVIに属する猫ノロウイルスの分子学的特徴と病原性』
刊行日:2015年8月5日。
掲載誌:Veterinary Microbiology, 178(3–4): 201–207.
Ongrádi J, Chatlynne LG, Tarcsai KR, et al.(2019)
Adenovirus Isolated From a Cat Is Related to Human Adenovirus 1.
日本語訳:『猫から分離されたアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス1型に関連する』
公開日:2019年6月25日。
掲載誌:Frontiers in Microbiology, 10: 1430.

ARTICLE INFORMATION

執筆・監修/公開情報

本記事の執筆・監修者と公開履歴

CREDITS

01 / WRITER

猫博士研究チーム

02 / REVIEW

Li Yun 博士

獣医師

PUBLICATION

公開日

2025年8月31日

最終更新

2025年8月31日

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