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その他

便秘と下痢①

猫の下痢と便秘を理解するために、消化管内の水分の供給と回収、浸透圧差による水分移動、腸内微生物と代謝産物の関係を整理します。便の水分量や排便回数が変わる仕組みを、基礎から解説する記事です。

便秘と下痢①

はじめに

今回の記事は少し長くなりますが、下痢や下痢止めに対する一般的な認識を、大きく見直すきっかけになる内容です。

下痢がどのように起こるのか、その仕組みを基礎から解説します。あわせて、効果が乏しい治療法と、その理由も取り上げます。

さらに、下痢の本当の原因をどう見つけるのか、何をどの順番で判断するのか、そして適切な治療をどう進めるのかについても、順を追ってお話ししていきます。

  • 消化管内の水分はどこから来て、どのように回収されるのか
  • 浸透圧差と水分吸収の仕組み
  • 腸内微生物が腸管内の浸透圧に与える影響

基礎知識

ここでは、基礎知識から確認していきましょう。すでにご存じの方は、後半から読んでいただいても問題ありません。

Ⅰ.消化管における水分の供給と回収

犬猫の消化管の基本的な構造は、人間と共通しています。食物や飲水に含まれる水分に加えて、次のような消化液も、消化管内への水分供給源になります。

1)胃液

塩酸やペプシンなどを含み、胃の中で食物、特にタンパク質の消化を助けます。

2)膵液

膵臓から十二指腸へ分泌され、重炭酸イオンによって胃酸を中和すると同時に、各種消化酵素がタンパク質・脂質・炭水化物を分解します。

3)胆汁

肝臓でつくられ、胆のうに蓄えられた後、十二指腸へ分泌されて脂肪の乳化を助けます。

消化管は、食べ物と一緒に入ってきた水分だけでなく、こうした消化液として分泌された水分も回収しています。

FIPの解説図

図1|猫の消化管と肝臓・胆のう・膵臓の構造

Ⅱ.浸透圧差と水分吸収の仕組み

空腸や回腸を含む小腸を通過する間に、消化された栄養素の大半が吸収され、水分の吸収も進みます。大腸に届くのは、小腸で吸収されなかった水分や、食物繊維などの残渣です。ここで重要な役割を果たすのが、大腸による残りの水分の回収です。

この水分の移動に関わるのが、「浸透圧勾配」です。

FIPの解説図

図2|半透膜を介した水の移動と浸透圧

半透膜とは、水は通す一方で、一部の溶質は通しにくい膜です。膜の両側で圧力などの条件が同じなら、水は、膜を通りにくい溶質の濃度が低い側から、高い側へ移動しようとします。この水の移動を止めるために必要な圧力を、浸透圧といいます。

ここでいう「濃度」は、水の中に溶けている物質の濃度です。吸収されにくい物質が腸内に多く残っていれば、その分、水も腸内に引き留められやすくなります。

腸壁は内側から、粘膜層、粘膜下層、輪走筋層、縦走筋層、漿膜で構成されています。粘膜下層には血管やリンパ管が走り、粘膜にも毛細血管やリンパ管が分布しています。

FIPの解説図

図3|腸壁の構造

腸では、ナトリウムなどの溶質が吸収されることで、腸上皮とその周囲に局所的な浸透圧勾配が生まれます。水分もそれに伴って腸管内から組織側へ移動し、最終的に血液へ回収されます。猫の小腸を用いた実験でも、ナトリウムの吸収によって生じる局所的な濃度勾配と、水分吸収との関係が示されています。※1

Ⅲ.腸内微生物と浸透圧の関係

腸内には、細菌をはじめ、古細菌、真菌、原虫、ウイルスなど、さまざまな微生物が存在しています。

腸内に存在する微生物の数は、約10¹⁰~10¹⁴個と推定されています。これほど多くの微生物が、消化内容物や腸の環境に関わっているのです。※2

腸内細菌は、回腸から送られてくる、消化・吸収されなかった残渣を発酵・分解します。その過程で、短鎖脂肪酸などの有機酸や、一部のビタミン類がつくられます。猫の消化管でも、こうした発酵によって生じる脂肪酸が測定されています。※3

これらの代謝産物は、腸内の電解質などとともに、消化内容物の溶質濃度や浸透圧に関わります。細菌の働きによって生じた可溶性物質が、吸収されずに腸内に多く残れば、浸透圧が高まり、水分も腸内に保持されやすくなります。

FIPの解説図

図4|下痢と便秘における便の水分量の違い

一方、短鎖脂肪酸などの代謝産物は、腸から吸収される際に、ナトリウムや水分の吸収を促す働きもあります。つまり、便にどれだけ水分が残るかは、腸内で何がどれだけつくられ、それがどの程度吸収されるか、その釣り合いによって変わります。※4

排便回数の増減も、便の硬さや量とあわせて、症状の悪化や改善を判断する重要な指標になります。

まとめと次回のご案内

今回は、猫の下痢や便秘がどのように起こるのか、猫ちゃんのご家族にも分かりやすいよう、基本的な仕組みを中心にご紹介しました。

この基礎を押さえておくことで、次回以降のお話も、よりスムーズに理解していただけるはずです。

次回は、下痢を引き起こす主な原因について、もう少し踏み込んで解説していきます。

ぜひ、引き続きご覧ください。

REFERENCES / EVIDENCE参考文献・資料本文で参照した研究・資料(4件)

※1|猫の腸における局所的な浸透圧勾配と、水分吸収の関係

Sjöqvist A, Beeuwkes R 3rd.(1989)
Villous sodium gradient associated with volume absorption in the feline intestine: an electron-microprobe study on freeze-dried tissue.
日本語訳:『猫の腸における水分吸収に伴う絨毛内ナトリウム勾配:凍結乾燥組織の電子マイクロプローブ分析』
刊行年月:1989年6月。
掲載誌:Acta Physiologica Scandinavica, 136(2): 271–279.
DOI:10.1111/j.1748-1716.1989.tb08661.x。PubMed

※2|腸内微生物数の推定範囲(約10¹⁰~10¹⁴個)と、腸内微生物叢の役割

Purina Institute.
The Gut Microbiome.
日本語版タイトル:『腸内微生物叢』
公開日:ページ内に記載なし。
掲載元:Purina Institute — Microbiome Forum/Microbiome Fundamentals(微生物叢フォーラム/微生物叢の基礎知識)。
資料種別:獣医療従事者向け栄養情報。Purina Institute

※3|猫の消化管内に存在する短鎖脂肪酸と、その分布

Brosey BP, Hill RC, Scott KC.(2000)
Gastrointestinal volatile fatty acid concentrations and pH in cats.
日本語訳:『猫の消化管における揮発性脂肪酸濃度とpH』
刊行年月:2000年4月。
掲載誌:American Journal of Veterinary Research, 61(4): 359–361.
DOI:10.2460/ajvr.2000.61.359。PubMed

※4|短鎖脂肪酸の吸収と、電解質・水分の移動〔ヒトの結腸を対象とした研究〕

Ruppin H, Bar-Meir S, Soergel KH, Wood CM, Schmitt MG Jr.(1980)
Absorption of Short-Chain Fatty Acids by the Colon.
日本語訳:『結腸における短鎖脂肪酸の吸収』
刊行年月:1980年6月。
掲載誌:Gastroenterology, 78(6): 1500–1507.
DOI:10.1016/S0016-5085(19)30508-6。PubMed

ARTICLE INFORMATION

執筆・監修/公開情報

本記事の執筆・監修者と公開履歴

CREDITS

01 / WRITER

猫博士研究チーム

02 / REVIEW

Li Yun 博士

獣医師

PUBLICATION

公開日

2025年7月28日

最終更新

2025年7月29日

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