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その他

ウイルスと細菌①

本記事では、細菌とウイルスの直接的・間接的な相互作用を整理します。細菌表面での結合、腸内細菌叢と免疫応答、呼吸器感染、MMTVによるLPSの利用を例に、両者を別々に捉えるだけでは見えない関係を解説します。

ウイルスと細菌①

はじめに

今日は、少し踏み込んだ話をしてみます。

細菌とウイルスは、本当に無関係なのか

微生物について、多くの人の中には「細菌は細菌、ウイルスはウイルス」という根強い考え方があります。

この考え方では、バクテリオファージ(細菌に感染するウイルスで、通常は高い宿主特異性を持ちます)を除けば、細菌とウイルスはまったく無関係で、互いに干渉することも、影響を及ぼし合うこともないとされます。すると、「抗生物質はウイルスとは無関係で、抗ウイルス薬も細菌には作用しない」という結論が、ごく自然に導かれることになります。

それでも、風邪に対して「習慣的に」抗生物質を処方する医師はいます。理由を尋ねれば、「二次感染を防ぐため」と答えるでしょう。細菌とウイルスの関係は、本当に「一方が感染した後に、もう一方が続く」というだけのものなのでしょうか?

EMORYを離れる前、私が取り組んでいた研究の一つが、微生物群とウイルスの相互関係でした。微生物群といっても、その範囲は非常に広いため、ここでは細菌とウイルスの関係に絞って話します。

細菌表面で起こる直接的な相互作用

ここで扱う動物ウイルスが感染するのは、真核細胞です。

一方、細菌は原核細胞であり、これらのウイルスが感染・増殖を完結できる宿主ではありません。とはいえ、ウイルスが細菌の細胞に結合できないということではありません。細菌の性質の多くは、その外側を覆う構造と関わっています。

FIPの解説図

例えば、ペプチドグリカン(PG)からなる細胞壁や、グラム陰性菌の外膜にあるリポ多糖(LPS)です。一部のウイルスは、こうした構造に接触するだけで、直接相互作用を起こします。細菌と直接接触しなくても、共通する宿主内の環境を介して、間接的に影響を及ぼし合うこともあります。こうした相互作用の多くは、結果としてウイルスの真核細胞への侵入能力を高め、ときにはウイルス感染と細菌感染をともに悪化させます。※1

FIPの解説図

腸内細菌叢がウイルス感染を左右する

間接的な関係から見ていきましょう。

動物の自然免疫系と獲得免疫系は、その発達と成熟を、微生物、とりわけ細菌に支えられています。ウイルスは、細菌によって生じる免疫環境の変化を利用して、感染を成立させることもできます。

分泌型免疫グロブリンとマウスノロウイルス

分泌型免疫グロブリン(sIg、主にIgA)の産生は、腸内細菌叢の影響を受けます。そして、これらの免疫グロブリンは、さまざまな粘膜、特に腸粘膜における防御の最前線を担っています。

ところが、マウスノロウイルスの急性感染を調べた研究では、この防御の仕組みが別の一面を見せました。分泌型免疫グロブリンを欠くマウスでは、回腸のインターフェロンγ(Ⅱ型インターフェロン)と誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のレベルがむしろ上昇し、ウイルス感染は軽減していたのです。このことは、sIgと腸内細菌叢の相互作用が腸内の免疫環境を調節することで、逆にウイルス感染を助ける場合があることを示しています。※2

Ⅲ型インターフェロンと持続感染

また、マウスノロウイルスの持続感染モデルでは、腸内細菌叢がウイルスの感染維持を助ける一方、Ⅲ型インターフェロン(IFN-λ)が、この持続感染を抑える重要な防御を担っています。腸内細菌を減らすことでウイルスの持続感染を抑えられるという効果も、このインターフェロン経路に依存しています。※3

ロタウイルス感染を抑える腸内細菌

一方で、ロタウイルス感染を抑える腸内細菌も存在します。例えば、セグメント細菌は、腸上皮細胞の更新を促すことで、ロタウイルスに対する防御を助けます。ところが、別のマウス実験では、腸内細菌を減らすと、ロタウイルスに特異的な抗体応答がかえって長く持続しました。これらの結果は、腸内細菌叢がロタウイルスワクチンの効果にどう影響するのかを研究するうえでも、手がかりとなります。※4

呼吸器感染とワクチン応答

抗原提示細胞やT細胞の応答は、同じ臓器における細菌感染にも影響します。例えば、マウスのA型インフルエンザ感染後のT細胞応答で産生されるIFN-γは、肺胞マクロファージによる細菌の排除能力を抑え、肺炎球菌が感染・増殖しやすい状態をつくります。※5 ところが、ワクチンの併用を調べた研究では、特定のA型インフルエンザ不活化ワクチンと肺炎球菌不活化ワクチンを組み合わせてマウスに経鼻免疫を行うと、肺炎球菌に特異的な抗体応答が強まり、インフルエンザに対する免疫防御も高まりました。※6

MMTVがLPSを利用する仕組み

さらに、ウイルスの中には、免疫系の構成要素を利用して、本来持っていなかった能力を獲得するものもあります。例えば、MMTV(マウス乳癌ウイルス)は、宿主のTLR4、CD14、MD-2など、LPSの認識や結合に関わる成分を自身のエンベロープに取り込み、それを利用して細菌由来のLPSと結合します。LPSを結合したウイルスは、その後、宿主免疫細胞のTLR4経路を活性化し、インターロイキン10(IL-10)の産生を促します。こうして免疫抑制的な環境をつくり、免疫による排除を逃れて、伝播を続けられるようになるのです。※7

REFERENCES / EVIDENCE参考文献本文で参照した研究・文献(9件)

※1|「細菌の表面成分と動物ウイルスが直接相互作用し、感染を促進すること」に対応

Kuss SK, Best GT, Etheredge CA, et al.(2011)
Intestinal microbiota promote enteric virus replication and systemic pathogenesis.
日本語訳:『腸内細菌叢は腸管ウイルスの増殖と全身性の病態形成を促進する』
公開日:2011年10月14日。
掲載誌:Science, 334(6053): 249–252.
DOI:10.1126/science.1211057

※2|「sIg、腸内細菌叢、IFN-γ、iNOSがマウスノロウイルス感染に及ぼす影響」に対応

Turula H, Bragazzi Cunha J, Mainou BA, et al.(2018)
Natural Secretory Immunoglobulins Promote Enteric Viral Infections.
日本語訳:『天然の分泌型免疫グロブリンは腸管ウイルス感染を促進する』
公開日:2018年11月12日(掲載誌でのオンライン掲載)。巻号の刊行は2018年12月1日。
掲載誌:Journal of Virology, 92(23): e00826-18.
DOI:10.1128/JVI.00826-18

※3|「腸内細菌叢とⅢ型インターフェロンが、マウスノロウイルスの持続感染に関与すること」に対応

Baldridge MT, Nice TJ, McCune BT, et al.(2015)
Commensal microbes and interferon-λ determine persistence of enteric murine norovirus infection.
日本語訳:『共生微生物とインターフェロンλは、マウスノロウイルスの腸管感染の持続性を左右する』
公開日:2014年11月27日(オンライン公開)。巻号の刊行は2015年1月16日。
掲載誌:Science, 347(6219): 266–269.
DOI:10.1126/science.1258025

※4|「一部の細菌によるロタウイルス感染の抑制と、腸内細菌叢の変化が抗体応答に及ぼす影響」に対応

Shi Z, Zou J, Zhang Z, et al.(2019)
Segmented Filamentous Bacteria Prevent and Cure Rotavirus Infection.
日本語訳:『セグメント細菌はロタウイルス感染を予防し、成立した感染も排除する』
公開日:2019年10月10日(オンライン公開)。巻号の刊行は2019年10月17日。
掲載誌:Cell, 179(3): 644–658.e13.
DOI:10.1016/j.cell.2019.09.028

Uchiyama R, Chassaing B, Zhang B, Gewirtz AT.(2014)
Antibiotic Treatment Suppresses Rotavirus Infection and Enhances Specific Humoral Immunity.
日本語訳:『抗生物質処理はロタウイルス感染を抑制し、特異的な液性免疫を増強する』
公開日:2014年1月16日(オンライン公開)。巻号の刊行は2014年7月15日。
掲載誌:The Journal of Infectious Diseases, 210(2): 171–182.
DOI:10.1093/infdis/jiu037

※5|「A型インフルエンザに対するT細胞応答が、肺胞マクロファージの細菌排除能力を低下させること」に対応

Sun K, Metzger DW.(2008)
Inhibition of pulmonary antibacterial defense by interferon-γ during recovery from influenza infection.
日本語訳:『インフルエンザ感染からの回復期における、インターフェロンγによる肺の抗菌防御の抑制』
公開日:2008年4月27日(オンライン公開)。巻号の刊行は2008年5月。
掲載誌:Nature Medicine, 14: 558–564.
DOI:10.1038/nm1765

※6|「特定のA型インフルエンザ不活化ワクチンと肺炎球菌不活化ワクチンによる、併用免疫の効果」に対応

Babb R, Chen A, Ogunniyi AD, et al.(2017)
Enhanced protective responses to a serotype-independent pneumococcal vaccine when combined with an inactivated influenza vaccine.
日本語訳:『不活化インフルエンザワクチンとの併用により、血清型に依存しない肺炎球菌ワクチンの防御免疫応答が増強される』
公開日:2016年11月24日(オンライン公開)。巻号の刊行は2017年1月1日。
掲載誌:Clinical Science, 131(2): 169–180.
DOI:10.1042/CS20160475

David SC, Norton T, Tyllis T, et al.(2019)
Direct interaction of whole-inactivated influenza A and pneumococcal vaccines enhances influenza-specific immunity.
日本語訳:『全粒子不活化A型インフルエンザワクチンと全菌体不活化肺炎球菌ワクチンの直接相互作用は、インフルエンザ特異的免疫を増強する』
公開日:2019年5月20日(オンライン公開)。巻号の刊行は2019年8月。
掲載誌:Nature Microbiology, 4: 1316–1327.
DOI:10.1038/s41564-019-0443-4

※7|「MMTVが宿主のLPS結合成分を取り込み、TLR4—IL-10経路を介して免疫を回避すること」に対応

Wilks J, Lien E, Jacobson AN, et al.(2015)
Mammalian Lipopolysaccharide Receptors Incorporated into the Retroviral Envelope Augment Virus Transmission.
日本語訳:『レトロウイルスのエンベロープに取り込まれた哺乳類のリポ多糖受容体は、ウイルスの伝播を促進する』
公開日:2015年10月14日。
掲載誌:Cell Host & Microbe, 18(4): 456–462.
DOI:10.1016/j.chom.2015.09.005

ARTICLE INFORMATION

執筆・監修/公開情報

本記事の執筆・監修者と公開履歴

CREDITS

01 / WRITER

猫博士研究チーム

02 / REVIEW

Li Yun 博士

獣医師

PUBLICATION

公開日

2025年4月16日

最終更新

2025年4月16日

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