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FIP

猫伝染性腹膜炎(FIP)の本質

本記事では、猫腸コロナウイルス(FECV)が猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)へ変化する過程を、Ⅰ型・Ⅱ型の起源、感染細胞の変化、マクロファージ内での増殖、T細胞・B細胞による免疫反応、そして治療と治癒の考え方から整理します。FIPVを保有している状態、ドライタイプ、ウェットタイプが相互に移行し得る病態であることを理解するための基礎を解説します。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の本質

はじめに

猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は、猫コロナウイルスが変異することで生じます。猫コロナウイルスは、猫腸コロナウイルス(FECV)とも呼ばれます。

FECVには、2つの型があります。

Ⅰ型・Ⅱ型猫コロナウイルスの起源

Ⅰ型FECVが、どの宿主の中で変異して生まれたのかはわかりません。ただ、猫ではありません。

Ⅱ型FCoVは、Ⅰ型FCoVと犬腸コロナウイルス(CCoV)との相同組換えによって生じたもので、S遺伝子とその周辺のゲノム領域はCCoVに由来します。 ただし、この組換えが猫の体内で起きたのか、犬の体内で起きたのかは特定されていません。また、異なるⅡ型ウイルスは、複数の独立した組換えによって生じた可能性もあります。

FIPの解説図

FECVからFIPVへの変異

この2つの型の猫コロナウイルスは、条件がそろうとそれぞれ変異し、2つの型の猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)になります。欧米ではほとんどがⅠ型FIPVですが、アジアでは25%がⅡ型FIPVです。

感染する細胞が、腸上皮からマクロファージへ変わる

名前のとおり、猫腸コロナウイルス(FECV)が感染するのは、猫の腸にある細胞、より正確にいうと腸粘膜の細胞です。このウイルスの遺伝情報の一部が失われたり、変化したりすると、感染する細胞の種類も変わります。ウイルスの細胞指向性が大きく変化し、主に腸上皮細胞で増殖していたものが、単球やマクロファージに効率よく感染し、その中で増殖して生き残れるようになるのです。

FIPの解説図
FIPの解説図

これが、FECVからFIPVへの変異の過程です。

FIPの解説図

FIPVがマクロファージ内で
増殖する仕組み

マクロファージは動物の白血球の一種で、免疫系の一員です。

ORF3領域と3cタンパク質

FIPVには11個のオープンリーディングフレーム(ORF)があり、その3番目にあたるORF3領域には、3a、3b、3cが含まれます。これまでの実験では、完全長の3cタンパク質がウイルスの増殖を抑える可能性が示されています。3c領域の遺伝情報が失われると、感染したマクロファージでは、アポトーシスの制御が失われます。

FIPの解説図

(※より慎重な共通見解では、FECVからFIP関連FCoVへの移行は、単一の「スイッチとなる変異」だけで決まるものではないとされています。Sタンパク質、3c、その他の領域の変化も関与する可能性があり、病原性を持つ生物型への転換を決定づける変異の組み合わせは、まだ完全には特定されていません。)

FIPの解説図

異常なマクロファージが肉芽腫を形成する

こうした異常なマクロファージは、死ぬことなく増え続けます。猫の漿膜、大網、胸膜、髄膜、ぶどう膜などにある細静脈の内皮や血管周囲に集まり、腫瘍のような肉芽腫をつくって、これらの臓器を傷つけます。

FIPの病態を左右するT細胞とB細胞

動物がウイルスに対抗する免疫系は、大きくT細胞とB細胞の2つに分かれます。

  • B細胞はいわば兵器工場で、ウイルスを認識する抗体を大量に生産します。
  • T細胞は、感染した細胞を狙って攻撃する戦闘部隊に近い存在です。

免疫状態の動的スペクトラム(Spectrum):
ドライタイプとウェットタイプのFIPは、
別々の病型ではない

FIPの発症過程では、変異ウイルス(FIPV)がマクロファージに感染すると、多数のT細胞がアポトーシスに陥ります。臨床的には、これがリンパ球減少症として現れます。T細胞が破壊され、その数が急激に減少することで、IFN-γの分泌量が著しく不足し、マクロファージを十分に活性化して細胞内のウイルスを排除することができなくなります。

FIPの解説図

一方、この影響を受けないB細胞は、ウイルスに感染したマクロファージの数に応じて、ウイルスに対する抗体を大量に合成します。これらの抗体がウイルスと結合すると、「抗原抗体複合体(免疫複合体)」が形成されます。

T細胞が十分にあれば、ウイルスに感染したマクロファージの数はある程度抑えられます。炎症、つまり先ほどの肉芽腫も限られた範囲にとどまり、大量の胸水や腹水は生じません。これがドライタイプのFIPです。

FIPの解説図

ドライタイプのFIPの初期には、通常、ある程度の炎症性滲出液(Exudate)がみられます。ただ、その量はごくわずかで、肉眼や通常の超音波検査では容易に確認できない程度だったり、すぐに体内へ吸収されたりします。十分な数のT細胞があれば、FIPはコントロールできる場合もあります。しかし、インターフェロンγが急激に低下すると、ドライタイプ、さらにはウェットタイプのFIPとして一気に発症することがあります。

FIPの解説図

FIPの治療と治癒の考え方

つまり、FIPVを保有しているだけの状態、ドライタイプのFIP、ウェットタイプのFIP、この3つの状態は相互に移行し得るということです。

そして、FIPの治療も、こうした状態を段階的に移行させていく過程です。

最終的な治癒とは、FIPVが排除された状態を指します。

ARTICLE INFORMATION

執筆・監修/公開情報

本記事の執筆・監修者と公開履歴

CREDITS

01 / WRITER

猫博士研究チーム

02 / REVIEW

Li Yun 博士

獣医師

PUBLICATION

公開日

2025年1月16日

最終更新

2025年1月19日

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